一宮 及川邸
在地:千葉県長生郡一宮町 用途:住宅兼オフィス 種別:リノベーション 構造:木造 延床面積:191.50m2
千葉県外房の一宮町での住宅兼事務所 スタジオリノベーションプロジェクト。元の建物は女性建築家三人による設計事務所 林・山田・
中原設計同人の山田氏が設計を担当し建てられた建物。
1994年築、当初はオーナー姉妹夫妻のための二世帯住宅として設計されていた。そのためリビングが左右に二つあり中庭を介してゆるや
かに区切られている。真ん中にあるホールはピアノホールだった。このホールの屋根が真ん中で半分に分割されているのはそこからの採
光によってどこでも明るくなるように、と二つの家族が住んでる。という事をイメージしていたとの事だった。改修にあたって、前オー
ナーが大切に保存していた図面や竣工当初の雑誌の記事によってそれらの設計意図を知る事ができた。さらに購入時、できるだけ建替え
せずにこのままの建物で住んでくれる人に譲りたい。という前オーナー親族の希望を及川氏が受け継ぐ事になった経緯もあったので、こ
の建物が大切に住まわれてきた事が感じられた。しかし売却前の少しの時期に空き家になっていた時間があったので屋根から雨漏をして
いる状態だった。ピアノホールの屋根は屋根が3つもある特殊な形状のため非常に雨仕舞が悪い。雨の事を考えれば一つの屋根にしてし
まったほうが安全だ。それでも当初の設計意図を知ってしまっていたのと、この屋根からはいるやわらかい光を捨ててまで屋根の形状を
変える事はできなかった。大きな事例の屋根を例にとってあげたが、この建物はすべてので箇所でどこまで手を加えるべきかをより深く
考えさせられる手ごわい建物だった。逆に言えばきちんと考え設計されている建物はそうなっていくはずなのだ。
そういった事もあり他の箇所も最低限の手を加えてはいるものの当初の形を極力のこす形での設計となった。 しっかり設計された建物
はあまり変える事なく長く使われていくのかもしれない。耐震性能や断熱性能をあげる事などは設計者として当然無視できない事ではあ
るが機能はいくらでも足そうと思えば足せる事も多い。どれだけ機能性が高くても残そうと思う人が少なければ、受け継ぐ時には建替え
られてしまうかもしれない。建築物の既存ストック利用がトレンドのようになりつつある昨今、色々なリノベーションに携わってきたけ
ども、きちんと設計された建物が一番長く使われていくのかもしれない。
そんな事を考えさせられるプロジェクトだった。
既存の形状は極力のこしたが屋根材端部には最低限の金物を入れる事とした。さすがに端部は金物なしでは浸水してるような箇所があった。
中庭の廊下は当初は天井がガラス板のみのトップライトだった。ここはすべて雨がはいってしまっていたのでそこには屋根をかける事とした。
木製建具がすばらしい。深い庇のおかげで建具の痛みは少なかった。外壁は当初より少しだけ濃い色に変え、外構は一部を残しオープンな
外廻りとした。
ホール内部 現在は及川氏のサーフレッスンのホールとして使用。
外の屋根形状がそのままの形で内部もつくられている。そこにあるハイサイドライトからやわらかい光がはいる。
片方のリビングはそのままリビングとして使用
広いワイドの木製建具による窓。戸袋にすべての建具と雨戸を収納する事ができる。
もう一つの元リビングは及川氏の事務所に
中庭
明らかに普通の建物とは違うのだが 屋根形状やボリュームなどは周辺ともなじみ違和感がない。
竣工当初の雑誌切り抜き 住空間の家族学/彰国社 より抜粋
当初の手書きによる図面